用語と定義
日本運動器SHOCK WAVE 研究会(JOSST)は、本邦において使用する体外衝撃波治療に関する名称及び専門用語を、
国際衝撃波治療学会(ISMST)の定義に基づき、下記の通り定義して用いることと決定いたしました。
国際衝撃波治療学会(ISMST)が定める治療ガイドライン
国際衝撃波治療学会(ISMST)が作成した様々な疾患に対する治療ガイドラインです。
このガイドラインは、医療従事者による患者への質の高いケアの提供を支援することを目的に、
最新かつ信頼性の高い医学的研究とエビデンスに基づいて作成されています。
≫国際衝撃波治療学会(ISMST) 体外衝撃波治療ガイドライン
体外衝撃波治療とは
体外衝撃波治療の基礎知識
早稲田大学 スポーツ科学学術院 熊井 司
(『運動器スポーツ外傷・障害の保存療法 下肢』南江堂 P.48~55より引用し一部改変)
Ⅰ 体外衝撃波治療の変遷
近年、体外衝撃波治療(Extracorporeal shock wave therapy : ESWT)は、運動器疾患に対する物理療法の一つとして特にスポーツ障害治療の分野で盛んに用いられるようになってきており、その効果が注目されつつある。衝撃波の持つ物理的特性を用いて、様々な生物学的効果を引き出す治療法として世界的に普及してきている。
衝撃波を医療に用いるという考えは、1960年代の主としてドイツで研究が始まっている。尿路系結石に対する砕石治療法(lithotripsy)のための研究が進み、1975年にはミュンヘン大学でラットに対して応用されている。1980年には人に対する初めての成功例が報告され、1982年にはドルニエ社による実用機器HM3が開発されている1)。砕石治療法と同じ考えで、1987年にはTHAのインプラント抜去時のセメント破砕にも有効であるとする報告がみられている2)。砕石治療法としての臨床応用が進む中で、同時に腸骨稜の骨肥厚や軟部組織の治癒促進が観察されることが注目され、1980年代後半から骨折治癒や偽関節の骨癒合促進、創傷治癒促進といった整形外科領域での応用が期待されるようになった3-5)。その後、偽関節治療時に早期から照射部周囲の疼痛が軽減することが確認されるようになり、軟部組織の疼痛性疾患の中でも特に難治性腱症(tendinopathy)・腱付着部症(enthesopathy)に対する疼痛治療としても注目されるようになった。
わが国では2008年に医療機器としての承認が下り、2012年より「難治性足底腱膜炎」に対する保険診療が可能となっている。さらに国際衝撃波治療学会(ISMST)で推奨される適応疾患(後述)が、足底腱膜症以外の難治性腱症・腱付着部症全般と、疲労骨折、骨壊死、離断性骨軟骨炎や創傷遷延治癒、皮膚潰瘍といった整形外科領域の多岐にわたるため、現在では広く普及するに至っている。また、他科においても循環器領域では狭心症に対する「低出力体外衝撃波治療」が2010年から先進医療技術に認定され臨床応用されており6)、他にも美容医療でのセルライト治療やED治療といった領域で広く用いられるようになってきている。
現在、スポーツ障害治療の分野では、上記のような適応疾患に対する除痛効果や組織修復促進効果に加え、筋・筋膜の滑走性や柔軟性改善などコンディショニングへの活用が期待されている。
Ⅱ 体外衝撃波の基礎
- 衝撃波の特性
衝撃波とは音速を超えて伝わる圧力の波であり、音響インピーダンスが異なる境界で瞬時にエネルギーを放出する特性がある。圧力レベルは100MPaと高く、10~20nsの超短時間に最高に達したのち速やかに陰圧に移行する間欠的な圧力波を呈するため(図1)、一般的な超音波(連続波)とは異なり熱を発生しないという特徴がある7,8)。生体内では水と音響インピーダンスの近い脂肪組織や筋肉内を通過し、大きく異なる骨表面や腱・靭帯付着部、腱変性部などとの境界部で反射・屈折し大きなエネルギーを放出する。さらに連続した衝撃波により生じた陰圧波が同じ境界部で気泡を形成し、膨張したのち暴発することにより二次的な破壊作用(cavitation効果)を示す(図2)。
図1 衝撃波の波形(focused shock wave)
圧力レベルは100MPaと高く、10~20nsの超短時間に最高に達したのち
速やかに陰圧に移行するのが特徴である
(こちらより引用し改変)
図2 陰圧波によるcavitation効果
陰圧波により気泡が形成され、膨張したのち暴発することにより超音速のmicro jetが発生し、
組織に対するナノメーターレベルでの破壊作用を示す。
(こちらより図を引用し改変)
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衝撃波の生物学的作用
ESWTによる臨床効果としては、即時的な除痛効果と遅発的な組織修復効果が確認されているが、その作用機序についてはいまだ十分に解明されていない。
除痛効果は、末梢での自由神経終末の破壊9,10)や脊髄後根神経節での神経伝達物質の抑制11)が関係していると考えられており、照射直後から効果がみられることが多い。またESWTの複数回照射により、破壊された神経終末の再生が抑制されることも報告されている12)。
組織修復効果については、衝撃波による機械的刺激が細胞からの生物学的応答を誘導する “mechanotransduction” 13)によるとする考え方が一般的である14)。腱や皮膚に対する効果は、主として血管新生増殖因子(VEGF)や血管拡張因子(eNOS)の誘導によるとされており7,15)、Type I コラーゲン産生増加16)や炎症性サイトカイン抑制17)も報告されている。また骨に対する効果として、骨形成因子(BMP-2)の分泌促進18)や骨形成幹細胞の遊走能促進19)も報告されている。
これらの運動器における生物学的作用を誘導するのに用いられている衝撃波エネルギー量は、泌尿器領域での砕石治療に用いられていたエネルギーよりかなり低い(図3)。現在、わが国で用いられている集束型体外衝撃波治療器で照射できるエネルギーはいずれも0.5mJ/mm2以下であり、low/med energyの領域で使用されている。
これに対し拡散型圧力波は、皮膚から浅い領域にエネルギーが放射状に伝播するため(後述)細胞に対する応答は限局されるが、筋・筋膜組織や脂肪組織に対する広範なwavingによる筋滑走性や緊張の改善による効果が期待されている。
図3 エネルギーによる衝撃波治療の違い 運動器を対象とする体外衝撃波治療に用いられているエネルギー量は砕石治療(lithotripsy)の約1/10に相当する。
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体外衝撃波治療の適応疾患と禁忌(参照)
ESWTの適応症と禁忌については、2016年に国際衝撃波学会により発表された合意声明(consensus statement)改訂版が最も信頼されている20)。2008年版の合意声明から8年経過したことで、新たなエビデンスも加わり内容がいくつか改訂されている。主な変更点は、標準適応疾患の中に、創傷遅延や皮膚潰瘍、非全周性熱傷といったskin-pathologiesが追加されたことと、bone-pathologiesの中の無腐性骨壊死や離断性骨軟骨炎に「早期」「骨端線閉鎖後」などの制限がなくなり、「関節障害を伴わない」ことが付記されたことである。この合意声明には、標準適応疾患以外にも、Empirically-tested clinical useとしてエビデンスは少ないものの経験的に用いられている疾患群として、腱板損傷や鵞足炎を含む腱障害や骨挫傷やシンスプリントを含む骨障害、筋挫傷、セルライトなどが明記されている。またExceptional indications – expert indicationsとして専門家による例外的適応に、変形性関節症、ばね指、手根管症候群、痙性なども挙げられている。
禁忌については、radialとlow energy focusedにおいては照射領域内の悪性腫瘍と胎児のみであり、肺、脳脊髄組織、骨端線についてはhigh energy focusedの照射領域内のみとなっている。
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体外衝撃波治療器の種類
体外衝撃波治療器には、集束型衝撃波(focused shock wave: FSW)と拡散型圧力波(radial pressure wave: RPW)がある。集束型は衝撃波を集束させて高いエネルギーを深部に到達することが可能であるのに対し、拡散型はハンドピース先端からエネルギーが放射状に伝播するため浅い領域でのみ有効である(図4)。両者の波形は異なり、拡散型は厳密には衝撃波というよりは5~20MPaレベルの緩やかな立ち上がりを示す圧力波(pressure wave)ということができる(図5)。発生方式も両者では異なり、集束型では電磁誘導方式(electromagnetic)、電気水圧方式(electrohydraulic)、圧電方式(piezoelectric)の集束領域の大きさが異なる3方式があり、拡散型は圧縮空気により発射体を飛ばすことで圧力波を発生させる空気圧方式(electropneumatic)が用いられている。
わが国で現在用いることのできるFSWは、Duolith SD1Ⓡ(STORZ MEDICAL社 スイス)とEPOS ultraⓇ(Dornier社 ドイツ)であり、いずれも電磁誘導方式による。またRPWも2015年から使用可能となっており、MASTERPULSⓇ(STORZ MEDICAL社 スイス)、インテレクトRPW(DJO社 米国)、BTL-6000トップライン(BTL社 英国)などが流通している(図6)。RPWはFSWに比べ安価で軽量・コンパクトなため、理学療法士やアスレチックトレーナーによるスポーツ現場での普及が拡大している。
運動器領域での体外衝撃波治療の発展を目的とした日本運動器SHOCK WAVE研究会が2016年に設立され、学術集会と各協賛企業の開催する実用的なセミナーを通して、症例検討や臨床・基礎研究の発表と手技の指導を行っている。
図4 集束型衝撃波と拡散型圧力波のエネルギー伝播の違い 集束型は衝撃波を集束させて高いエネルギーを深部に到達することが可能であるのに対し、
拡散型はプローブ先端からエネルギーが放射状に伝播するため浅い領域でのみ有効である。
図5 拡散型圧力波の波形 (radial pressure wave) 圧力レベルは5~20MPaが一般的であり、
3μsの時間で比較的緩やかな立ち上がりを示すのが特徴である。
(図2とは圧力レベルのスケールが大きく異なる)
(こちらより引用し改変)
図7 本邦で利用できる代表的な体外衝撃波治療機器 a. Duolith SD1® ultra b. EPOS® c. MASTERPULS® MP100 d. インテレクトRPW e. BTL-6000トップライン
Ⅲ 体外衝撃波治療の基本操作手順(集束型)
衝撃波によるエネルギーを、正確に病変部に照射することが最も重要となる。実際の臨床でのポイントとして以下の3点を心がけている。
- 圧痛点と超音波検査による病変部位の特定:
腱・靭帯付着部症や疲労骨折の多くは皮膚上から比較的簡単に病変部を触知することができる。まずは圧痛点を正確に同定し、超音波画像にて病変を描出する。疲労骨折や離断性骨軟骨炎の場合は、XpやCT、MRIの画像所見も参考にする。
- 照射深度・角度の設定:
超音波画像やCT画像から、病変の皮膚からの深度を計測する。超音波検査の場合には、プローブを皮膚上に垂直にあて得られた画像からその深度を読む(図7a)。ハンドピース先端に、深度に合わせたスタンドオフ(照射深度調整用アクセサリー)を選択し装着する(図7b)。照射時にはハンドピースを超音波検査でのプローブと同じ角度・強さで設置する。
図7 基本操作手順 a.超音波画像での照射部位・深度の決定(足底腱膜症)
b.深度に合わせたスタンドオフの選択
- バイオフィードバック:
照射時の局所麻酔は原則的に使用していない。照射中に疼痛部位と程度を患者さんから確認しつつ、エネルギー強度を調整していく。照射強度は、徐々に上げていき患者さんが耐えうる最大強度で行う。照射により普段感じている部位の疼痛を訴えるが、多くの場合、数分のうちに軽快する。照射部位や角度をわずかに変化させつつ疼痛を再確認しながら、同じ操作を繰り返していく。照射は1週ごとに3セッション、1回の照射は2000発を基本としているが21)、セッション数、照射数ともに症状に応じて適宜変化させる。
Ⅳ スポーツ障害の各種疾患に対する応用
- 難治性腱症/腱靭帯付着部症(Chronic tendinopathy / enthesopathy)
腱・腱靭帯付着部へのoveruseによる微小損傷が、経年的に修復不全となり腱の変性・瘢痕をきたした状態といえる。また異常血管網の発達とともに多くの神経線維と神経ペプチドが確認されている13,22)。ESWTによる異常な神経終末の破壊が即時的な除痛効果を生み、同時にmechanotransductionによる遅発的な組織修復効果や抗炎症効果が期待できる。
実際には、原因となる動作の改善やアライメント修正、筋力強化、遠心性訓練といった運動療法と組み合わせて、1回/週x3セッションのESWTを行い、疼痛と機能を評価する。これまでに足底腱膜症23,24)、アキレス腱症/付着部症25-27)、膝蓋腱症27,28)、上腕骨外側上顆炎7,29)、石灰沈着性腱板炎30)などに対する有効性が確認されている。
- 骨疾患(Bone pathology)
前述したようにESWTによる骨形成作用を利用した治療が行われている。偽関節や骨折後の遷延治癒に対する効果が確認され31)、疲労骨折32,33)や離断性骨軟骨炎34)に対する報告も見られる。
軟部組織に対する照射に比べ、照射時の疼痛を強く訴えることが多いため、より低いエネルギー強度から照射しはじめ、最終的には最大強度まで上げるようにする(図4参照)。著者はアスリートの疲労骨折に対して、ESWTを第1選択とした治療を行っている。除痛効果ののち骨形成が促進されている。自験例では、他にも有痛性外脛骨(図8)や種子骨障害、Iselin病において比較的良好な臨床効果が得られている。
各腱症・腱靭帯付着部症、疲労骨折の病態についてはIV疾患別保存療法を参照されたい。
- スポーツ現場での疼痛ケアとコンディショニング
近年、RPWのスポーツ現場での日々のケア、コンディショニングへの活用が普及してきている。RPWは軽量・コンパクトであり、トレーナーによる使用が可能であることから、チーム遠征や合宿に携帯されることも多い。また、操作性の良いハンドピースと豊富なトランスミッターを備えており(図9)、それらを組み合わせることによりトリガーポイントの疼痛治療、筋・筋膜緊張緩和、振動による微小循環改善やリラクセーション効果を期待した活用が行われている。今後、作用機序を含めたエビデンスの確立が望まれる。
図8 有痛性外脛骨症例(20歳女性 マラソン選手)
a. 足部外斜位像 Veitch II型の外脛骨が観察される
b. 照射後の疼痛評価(NRS) 照射直後から疼痛が著減している
図9 RPW(STORZ MEDICAL社 MASTEPULS® MP100)
a. 操作性の良いハンドピース
b. 用途に応じた豊富な種類のトランスミッター
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集束型体外衝撃波治療の実際
医療法人 紺整会 船橋整形外科病院 スポーツ医学・関節センター 高橋 謙二
- 病因
主に足底腱膜内側線維束の踵骨付着部やその遠位で発症する腱症が本態である。高齢、過体重、回内足、下腿のタイトネスによる足関節背屈障害などさまざまな要因の中、腱膜に機械的な圧迫ストレスや伸長ストレスが過度にかかることにより発症する。腱の微小損傷の繰り返しに加え、組織学的には細胞浸潤を伴うコラーゲン線維の配向不良、血管や神経線維の増生による神経伝達物質の過剰な局在が認められ、難治性の有痛性病変が形成される。これらのことから治癒過程が進みづらいとされている。また腱周囲の滑液包炎や脂肪体炎、骨髄浮腫を伴う踵骨棘により、更に痛みを助長し機能障害に至る場合もある。
- 診断
踵骨付着部やその遠位の腱膜上にある圧痛が最も重要な所見であり、硬結を触知することも多く、また、母趾背屈により痛みが誘発されることもある。エコー検査では腱膜肥厚に伴うfibrillar patternの開大や低エコー像が特徴的であり(図1)、MRIでは脂肪抑制像で腱膜周囲浮腫、腱膜内高信号域、踵骨骨髄浮腫などを認める(図2)。このような腱膜病変が認められると確定診断となる。一方、X線では踵骨棘や扁平足などを認める。脂肪織炎、短母趾屈筋の変性断裂、踵骨疲労骨折などの鑑別診断が重要である(図3)。
- ポジショニング
集束型体外衝撃波治療には、エコーガイド下に照射する機器と、事前にエコーで病変部の位置を確認した後に直接患部に照射する機器がある。前者では側臥位でエコープローブを足底より当て、エコーガイド下に衝撃波を内側より照射する。後者では事前にエコーで病変部の方向と深さを確認し、それを参考に腹臥位で足底より衝撃波を照射する(図4)。いずれも照射中の疼痛再現を確認することが重要である。
- 治療プロトコール
体外衝撃波治療の保険適応は唯一本症に対して認められており、一連につき5,000点である。そのため3か月に3回の治療を行うことを1クールとし、2~4週間隔で治療を行い3か月ごとに評価し、必要ならば2クール目を行うか検討する。照射条件は、原則1治療あたり2,000発、我慢できる最高出力で行う。照射頻度は疼痛再現が得られるまでは低頻度で位置と方向を決め、確認できたら高頻度で照射を行う。局所麻酔は使用しない。
- 治療のポイント
第一に重要なのは正確な診断である。体外衝撃波治療の有効予測因子として、踵部の圧痛点を認めること、MRIで腱膜肥厚や踵骨骨髄浮腫を認めること、更に腱膜内にT2強調像で高信号域を認めることなどとされている(図2)。一方、MRIでこのような所見が乏しく脂肪織炎や短母趾屈筋の変性などが主因と考えられる場合は体外衝撃波治療の有効性は限定的であろう。 実際の治療では、病変に対し正確に照射することが重要であり、照射中は疼痛再現を確認することを心がける。治療効果は開始後しばらくして徐々にみられてくることが一般的で、患者にはその旨を伝えておくことが安心につながる。3か月で十分な満足が得られなくても、その後の経過観察や追加治療で成功率が高まると考えて良い。実際、疼痛レベルが半減以上した症例は、治療開始後3か月時点で約6割、平均約1年の最終経過観察時で8割以上であった。
図1 足底腱膜炎のエコー像(踵骨に付着する足底腱膜の超音波画像)
正常の足底腱膜(a)と比較して、足底腱膜症の患者(b)では腱膜が肥厚し、 fibrillar patternの開大や低エコー像を認める ※矢頭:足底腱膜 |
図2 足底腱膜症のMRI画像
a. 付着部型:腱膜の肥厚を伴う腱内高信号域、腱膜周囲浮腫、踵骨骨髄浮腫 b. 非付着部型:腱膜の肥厚を伴う腱内高信号域 |
図3 鑑別診断 |
医療法人 尽心会 百武整形外科病院 田中 博史
- 病因
足舟状骨疲労骨折は陸上競技の短距離、中・長距離に多く、その他の種目としてバスケットボール、野球、ラグビー、ハンドボールなどの競技者に発症しやすいとされ、アーチが高く、下腿三頭筋のタイトネスを認める症例に多い。発症メカニズムは内側支柱に加わる圧縮力や、後脛骨筋腱付着部とばね靭帯による牽引力が大きく関わっていると考えられており、急激な練習量の増加に伴って発症する。
- 診断
症状は運動時や運動後のみ痛みを感じることが多く、明確に痛みの部位を特定しにくいため見逃され易い。 診断上特に重要な所見は舟状骨背側中央で長母趾伸筋と前脛骨筋腱の間のN-spotと呼ばれる圧痛点に見られる。 初期は他の疲労骨折同様に単純X線で捉えることが難しいため、舟状骨疲労骨折を疑ったらMRIで診断する。単純X線で明確に骨折線を認める場合は偽関節となっていることもあり、 CTで詳細な骨折型を評価し、治療方針の指標とする。
- ポジショニング
患者は仰臥位で、足底を接地してリラックスした状態で行う。事前に超音波を用いて舟状骨の照射部位を確認し、マーキングしておく(図1,2)。
- 治療プロトコール
- 超音波診断器を用いて診断する。照射の深さを確認し、照射深度を調節するためのスタンドオフを選択する。
- 照射部位を触診し、痛みの部位を再確認する。
- 痛みの部位を確認しながら治療を開始する。
- エネルギー流速密度:0.08-0.15mJ/mm2、 3,000発/回、インターバル1週、 1クール3回
- 治療のポイント
足舟状骨疲労骨折は難治性疲労骨折の一つであり、文字通り難治である。したがって最も重要なことは早期診断、早期治療と同時に再発予防策を行うことである。具体的には細かい問診と診察を行い、疑わしい場合は早期にMRIを行うこと。単純X線、CTで骨折線を認めない早期の症例に対しては、スポーツを中止し、理学療法と体外衝撃波治療を1クール行う。治療開始後1ヶ月以降の画像所見の改善と圧痛の消失を確認してから、徐々にアスリハを開始する。骨折線を認める症例についても同様に保存療法を行うが、患者の希望によっては手術療法を選択する。骨折線を認める場合は骨癒合状態を確認してからスポーツ復帰となる。また、受診時に骨折線と硬化像を認める偽関節症例では手術療法を選択する。保存療法や手術療法のいずれを選択した場合も治療後の再発防止のため、急激な練習量の増加を避けてもらい、下腿三頭筋のストレッチ指導やランニングフォームのチェックなどを行う必要がある。
図1 | 図2 |
久留米大学医療センター 整形外科・関節外科センター 野口 幸志
- 病因
アキレス腱症は、踵骨付着部から近位2~6cmの解剖学的に血流の乏しい領域で生じる微細損傷や小断裂による、アキレス腱実質内の変性と退行性変化が主な病態である。病期が進行すると腱の瘢痕化がパラテノンへ波及し、腱との間で線維性癒着を起こし滑走障害を生じる。そのため、アキレス腱症とアキレス腱周囲炎は合併していることも多い。多くはoveruseによるスポーツ障害と考えられているが、下腿三頭筋の柔軟性低下や回内足などのアライメント異常、加齢や基礎疾患(糖尿病やステロイド使用歴など)も関連している。
- 診断
疼痛、腫脹、運動障害の三主徴を認めることが多く、周囲炎では熱感を伴うこともある。腱の肥厚や結節を触診でき、足関節の底背屈で捻髪音を認めることもある。単純X線では腱内の石灰化や骨化病変の有無を評価でき、MRIでは腱の肥厚や腱内または周囲の信号変化を評価できる。近年では超音波検査が有用であり、腱の肥厚像、fibrillar patternの消失、カラードプラで Kager’s fat padからの血管侵入を確認でき、これらは治療を考える上で重要な情報となる。
- ポジショニング
腹臥位になり患部の足関節前方にクッションを置き、足趾を背屈、足関節を軽度背屈することでアキレス腱を伸張させ安定させる(図1)。ベッド端から足を出し、セラピストの膝を使って足関節の背屈を補助しながら照射することもできる。
- 治療プロトコール
圧痛点をマーキングし、エコーで病変部位を確認後、その深度を計測する。アキレス腱症の照射深度は深くないため、15㎜のスタンドオフ(照射深度調整用のアクセサリー)を選択することが多い。その際、表層部にシリコンシートで作製したK2 gel-podを用いて焦点距離を調節し照射している(図2)。局所麻酔は使用せず、照射部位と疼痛部位が一致するか、患者へ確認しながら治療するbiofeedback照射を行う。1回の照射は2,000発とし、照射出力は痛みに耐えられる最高出力まで上げる。1〜2週間隔で計3回の治療を1クールとする。
- 治療のポイント
アキレス腱症に対する体外衝撃波治療の有効性は報告されているが、アキレス腱周囲炎に対する有効性は明らかにされていない。そのため、腱実質部障害と腱周囲組織障害の評価を超音波検査で正確に行う必要がある。治療の主軸は、下腿三頭筋の遠心性運動療法(eccentric exercise:EccEx)であり、3か月は継続するように指導する。EccEx単独でも有効性は示されているが、体外衝撃波治療を併用することで有効性が高まると報告されており、必要に応じて併用を検討する。しかし、EccExが行えないほど疼痛が強い症例に対しては、ヒアルロン酸の局所注入療法など他の治療の組み合わせを検討すべきである。合併症として、ステロイド注射の既往がある患者や高齢患者に対する体外衝撃波治療はアキレス腱断裂を引き起こす可能性があるため注意が必要である。
図1 | 図2 |
医療法人社団 悠仁会 羊ヶ丘病院 リハビリテーション科 理学療法士 佐々木 和広
(医療法人社団 悠仁会 羊ヶ丘病院 倉 秀治 監修)
- 病因
アキレス腱付着部症は2つの病態が考えられる。1つは腱が繊維軟骨を介して踵骨と付着した部分の腱付着部構造が下腿三頭筋の牽引ストレスにより微細損傷を起こして生じた炎症で、狭義のアキレス腱付着部炎とされる。もう1つはアキレス腱遠位部と踵骨後上隆起の間にある踵骨後部滑液包に反復した圧迫が加わり炎症を生じた踵骨後部滑液包炎がある。いずれも下腿三頭筋の柔軟性低下やスポーツや長時間歩行による反復した機械的ストレスを契機に発症し、不適合な靴の装着により悪化することもある。
- 診断
症状は足関節背屈に伴う局所の疼痛であり、起床後の歩行開始時や長距離歩行、運動での疼痛が主となる。狭義のアキレス腱付着部炎ではアキレス腱付着部自体の圧迫により疼痛が誘発され、踵骨後部滑液包炎ではアキレス腱付着部前方を内外から圧迫するtwo-finger squeeze testにより疼痛が誘発される。X線画像で付着部から生じる骨棘や石灰化像の有無を、MRI撮影で腱付着部の輝度変化や踵骨後部滑液包の水腫を確認する(図1)と、アキレス腱踵骨付着部に輝度変化と踵骨後部滑液包に水腫様の輝度変化を認める。
- ポジショニング
F–SW照射時のポジショニングは、治療台に患者を腹臥位とする。踵・アキレス腱を露出させた上、バスタオルなどを丸めたクッションの上に下腿遠位を乗せ、足関節を軽度背屈に保ち安定させる。圧痛部位を確認し、術者は患者の尾側に位置して足部を固定した上で、踵骨後方から垂直にハンドピースを当て照射を開始する。
- 治療プロトコール
照射深度30mmのスタンドオフをハンドピースに装着する。 1回の治療における照射数は2,500発とし、照射出力(エネルギー流束密度(Energy Flux Density; EFD (mJ/mm2))は0.10〜0.20 mJ/mm2の範囲において疼痛自制内最大の強度とする。この治療を2週間に1度の頻度で合計3回行う。
- 治療のポイント
踵部は丸みを帯びているためハンドピースを徒手的に固定するときに苦慮することがある。その場合、患者の足部を治療台にベルクロ(マジックテープ)のついたバンドなどを用いて簡易的に固定し、ハンドピースを両手で把持するとよい。また、炎症の部位が狭義のアキレス腱付着部と踵骨後部滑液包の両方に存在する場合、照射時に訴える最大疼痛部位が複数箇所ある場合もあるので状況に応じて照射部位を増やすことも考慮する。 踵骨が回内してしまう扁平足の場合はアーチサポートを、靴の踵部がアキレス腱付着部と衝突しやすい場合はヒールカップを備えたインソールやハイカットの靴を使用するなど局所にメカニカルなストレスを集中させないように指導する。理学療法として下腿三頭筋や足底腱膜の柔軟性の改善とともに、疼痛が減ってきたら下腿三頭筋の遠心性筋力トレーニングを併用することも有用である。
図1 MRI T2矢状面像
筑波大学 医学医療系 スポーツ医学 金森 章浩
- 病因
スポーツ活動で、膝蓋腱に繰り返しの負荷がかかると膝蓋腱が微少断裂をおこす。通常は治癒機転がはたらくが、負荷が継続した場合には治癒機転がおこらず、腱組織が変性する。その変性組織内には新生血管や神経が侵入して疼痛を引き起こすと考えられている。また膝蓋骨下極の形態によっても膝蓋腱のインピンジがおき、腱の変性につながることもある。
- 診断
運動時の膝蓋腱の痛みと同部の圧痛があればまず本疾患が疑われる。初期であれば運動制限と大腿四頭筋のストレッチなどで症状が軽減するが、長期にわたる場合は画像診断を行う。X線検査では膝蓋骨の形状、超音波では膝蓋腱の連続性の異常や腱内の新生血管に注目する。MRIも有用であり、腱の肥厚や腱内の輝度変化、膝蓋下脂肪体の輝度変化などが認められる。膝蓋腱炎と思われても、膝蓋大腿関節の異常のこともあるため、理学所見と画像所見を総合的に検討する必要がある。
- ポジショニング
診察台上に仰臥位となり、タオルやまくらで膝関節屈曲位とする。膝関節伸展位では膝蓋骨が不安定となり、照射位置がぶれてしまう。圧痛点にマーキングをし、超音波を用いて病変部を確認する場合もある(図1)。
- 治療プロトコール
ハンドピースをあて、低レベルの出力で開始するが、その際に衝撃波が腱の痛みの部位を正確にとらえているかを確認し、徐々に出力を上げていく。痛みに耐えられない場合はその出力で30秒ほど経過をみると痛みの感覚が鈍くなり、引き続き出力を上げていくことが可能となることが多い。通常は2,500発の照射を行うが、シーズン中などは半分程度に抑えることもある。治療回数は2~3週間に1回、計3回行う。
- 治療のポイント
アスリートにとってジャンパー膝の痛みはパフォーマンスに大きく影響する。 体外衝撃波治療は痛みの軽減には非常に有効という印象がある。シーズン中の選手では、まず痛みをとることを念頭に、少ない照射数で頻回に治療を行うことが多い。シーズンオフで腱症の治癒まで期待する場合は、高出力で2,500発まで行いその後も完全安静にするのではなく、eccentric exerciseを含めたトレーニングを継続する。 また腱症の範囲をMRIで正確に把握しておくことも重要である。病変が膝蓋下脂肪体にまで及ぶような場合(図2)には思うような効果が得られないこともあるため、その際はPRPなどの別の治療法の選択も考慮する。
図1
図2
医療法人 三仁会 あさひ病院 スポーツ医学・関節センター 岩堀 裕介
- 病因
短橈側手根伸筋腱(ECRB)の退行変性・オーバーストレスにより、上腕骨外側上顆の腱起始部の微小断裂、外側上顆外壁との摩擦を生じて、肘関節外側の疼痛を生じる。病変はECRBから長橈側手根伸筋腱(ECRL)や総指伸筋腱まで拡大したり、外側滑膜ひだ障害、腕橈関節変形性関節症、外側側副靭帯機能不全による後外側回旋不安定症(PLRI)を合併することもあるため、スペクトラムを持ったlateral elbow painful syndromeと捉えられるようになっている。
- 診断
外側上顆部の圧痛・腫脹、疼痛誘発テストとしてThomsenテスト、中指伸展テスト、Chairテストがある。外側滑膜ひだ障害の合併についてはfringeテスト、外側側副靭帯機能不全の合併については後外側回旋不安定性テスト(PLRIテスト)をチェックする。握力測定時の疼痛と握力低下(対側比)は有用な指標となる。画像所見としては、エコーでのECRB起始部のlow echoや血管増生(図1)、MRIでのECRB起始部のT2高信号や外側滑膜ひだの確認が重要である。単純X線像で外側上顆部の骨棘や石灰化が確認されることもある。
- ポジショニング
仰臥位で患肢の肘下に小枕を置いて肘関節は軽度屈曲位として、患者にはリラックスしてもらう(図2)。
- 治療プロトコール
集束型体外衝撃波治療器であるDUOLITH®SD1 ultra(デュオリスSD1 ウルトラ)を使用する。上腕骨骨外側上顆部の圧痛とエコー所見により病変部位と深さを確定してピンポイントで施術を行う。出力は0.01mmJ/mm2から最大0.25mmJ/mm2まで徐々に上げていき患者さんが我慢できる最大の出力で行い、1回の照射は2,500ショットとし、照射間隔は1週間程度、3~5回を1クールとする。
- 治療のポイント
上腕骨外側上顆炎の病変部位は皮膚から10mm以内と浅いためロングのスタンドオフ(照射深度を調整するアクセサリー)を使用する(図3)。照射時の疼痛の誘発部位を探りながら微妙に照射部位を変更する。複数回施行する場合に、有痛部位が変化することがあるので、毎回実施前に圧痛とエコーにより病変部位を確認する。出力は高い程有効性が高いと言われているが、照射時痛には個人差があり、また不快な疼痛を経験すると治療の継続に支障をきたすため、出力の上昇は個々の患者の疼痛を確認して慎重に行う。著効は1回目で除痛効果を認めるが、一般的に効果は2回目以降に自覚されることが多いため、疼痛が増強しない限り最低2回までは実施してみる。2回実施しても明らかな効果がみられない場合は、3回以降で徐々に効果が現れる可能性もあるため、患者さんと相談の上、中止または続行を検討する。ECRBの剥離が重度な例、外側滑膜ひだ障害を合併している例では有効性が低い。通常3~5回を1クールとしている。
図1 上腕骨外側上顆炎のエコー所見
図2 上腕骨外側上顆炎に対する集束型体外衝撃波療法の実際
千葉大学 医学研究院 整形外科学 落合 信靖
- 病因
肩関節にはいわゆるインナーマッスルといわれる腱板(棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋)があり、その腱板にハイドロキシアパタイトを主体とした石灰が沈着する疾患である。原因については腱の加齢・力学的負荷による退行性と血行不良により石灰が誘発されると考えられている。症状のない無症候性の場合もあるが、疼痛を認める場合、肩峰下滑液包に炎症所見を認める。病気は急性、亜急性、慢性と分類され、体外衝撃波治療の適応となるのは6か月以上石灰が残存し、症状が続いている慢性期の状態である。
- 診断
診断は通常の理学所見と画像診断で行う。理学所見では石灰沈着の部位により異なるが、最も多いのは棘上筋と棘下筋の移行部位に認められ、肩の内外旋によりひっかかりや挙上での痛み、筋力低下が生じる。一方小円筋や肩甲下筋に石灰が沈着する場合、違和感や痛みがメインとなることが多い。通常は肩関節のレントゲン撮影を行うことにより診断可能である。最も多いのが棘上筋と棘下筋の移行部のため、通常肩の内外旋、スカプラYに加え、中間位での撮像を行う。また詳細な部位の把握のため、CTを撮影すると大きさ等が分かり有用である。
- ポジショニング
部位により照射方法が異なる。超音波エコーが付属されている体外衝撃波デバイスもあるが、肩甲下筋腱の肩石灰性腱炎の場合それを用いてターゲットを絞ることは困難なため、独立した超音波エコーで石灰部位と深さを確認、マーキングをし、前方より照射を行う。棘上筋、棘下筋の場合は外側より付属の超音波エコーで石灰を確認し、石灰に焦点を合わせて(図1)、軽度外旋位で前方より体外衝撃波照射を行う(図2)。一方小円筋の場合石灰部位が後方のため、肩を内旋位として、外側よりエコーで石灰を確認し石灰に焦点を合わせて照射を行う。
- 治療プロトコール
特定のプロトコールはないが、現在はなるべく痛みに応じた最大のエネルギーで照射を行うことが重要と思われる。衝撃波の照射は、照射直後は痛みを強く感じることが多いが、しばらく照射を行うと痛みが緩和される場合が多い。そのため、最初から強いエネルギーで照射すると痛みが強いため、低いレベルで照射を行い、徐々に強いエネルギーへ上げていく。照射回数についても決まりはなく、1回あたり、2,000発から5,000発、総照射エネルギー量(1回あたりのエネルギー量×照射発数)を800mJや1,300mJと設定して照射を行うことが多い。
- 治療のポイント
肩石灰性腱炎に対する体外衝撃波療法では石灰に体外衝撃波のエネルギーを集束させることが重要である。そのため、体外衝撃波装置にエコーが付属している場合はターゲットを石灰に絞り照射を行う必要がある。また付属のエコーがない場合は、照射前に石灰の部位と照射方向、深さを確認し、エネルギーが集束する焦点距離に石灰が来るように照射方向を設定する必要がある。また照射の際に痛みを感じる場合が多いため、痛みに応じて徐々にエネルギーを上げていくことが重要である。患者さんが無理に痛みを我慢していると迷走神経反射が生じる場合があり注意が必要である。また痛みが強い場合は照射部位に局所麻酔剤を注射することも有用である。
図1
図2
拡散型圧力波治療の実際
医療法人 和幸会 阪奈中央病院 スポーツ・関節鏡センター 理学療法士 佐竹 勇人
(早稲田大学 スポーツ科学学術院 熊井 司 監修)
- 症例
‐ 47歳 女性 左変形性膝関節症 高位脛骨骨切り術 術後2か月
‐ 左膝関節屈曲の可動域制限あり:
術前: 130°(他動)
術後9週: 105°-110°(自動・他動)
- ポジショニング
‐ 膝蓋腱: 背臥位にて膝伸展位
‐ 大腿四頭筋:背臥位にて膝関節屈曲位。屈曲角度は患者自身が可能な範囲とした。
- 治療プロトコール
▼治療部位
拡散型圧力波(以下、R-PW)照射前に関節可動域訓練・ストレッチング・筋力強化等の理学療法を施行。その後、患者に膝関節を自動運動で屈曲させたところ膝蓋腱に伸張痛を確認したため、その疼痛部位をR-PWの照射部位とした。また、膝蓋腱へのR-PW照射後に再度膝関節を屈曲すると、今度は大腿四頭筋遠位(膝蓋骨上縁付近)に伸張痛を訴えたためR-PWで追加治療を行った。
▼治療パラメータ
‐ 膝蓋腱: トランスミッター:R15、照射数:2,000発、エネルギー:1.0-2.0bar
‐ 大腿四頭筋: トランスミッター:R15、照射数:2,000発、エネルギー:1.0-2.0bar
R-PW照射後は膝関節屈曲の関節可動域訓練と、膝関節屈曲伸展の自動運動などの自主訓練を実施するよう指導。
- 結果
R-PW照射前後の膝関節屈曲角度評価の変化:
‐ R-PW照射前(図1a): 105-110°
‐ 膝蓋腱へのR-PW照射直後: 115-120° ※この時点で膝蓋腱の伸張痛は消失。
‐ 大腿四頭筋へのR-PW照射直後(図1b): 120-125°
‐ R-PW照射翌日(図1c): 130°
術前と同等の可動域を獲得したためR-PW治療を終了した。
- 治療のポイント
‐ 徒手やストレッチ等で容易に改善できるポイントにはR-PWは実施しない。
‐ R-PW照射部位は、問診、触診、誘発テスト等で念入りに評価を行い決定する。
‐ R-PW照射後は再評価を行い、効果の有無、追加の照射が必要であるかを判断する。
‐ R-PWを用いる目的が筋の柔軟性や可動域の改善である場合は、対象の筋や軟部組織に対して、
他動・自動で関節可動域訓練等の運動療法を持続して行う。
図1a Before | 図1b After | 図1c 24時間後 |
自動運動による膝関節屈曲角度を撮影。Image Jにより角度を算出し、3回測定の平均値を採用。 |
医療法人 和幸会 阪奈中央病院 スポーツ・関節鏡センター 理学療法士 佐竹 勇人
(早稲田大学 スポーツ科学学術院 熊井 司 監修)
- 症例
‐ 54歳 男性 左アキレス腱断裂縫合術 術後5か月
‐ 術創部周囲の癒着が著明
‐ 足関節背屈可動域制限あり 背屈9.5°
‐ 徒手筋力テスト 左足関節底屈2レベル
‐ カーフレイズ時に術創部周囲につまり感と疼痛(NRS6)が出現
- ポジショニング
腹臥位にし、足はベッド端から出す。足関節角度は定めない。
- 治療プロトコール
▼治療部位
問診と触診を行い、術創部周囲の癒着部に足関節自動背屈時に伸張痛、下腿三頭筋収縮時につまる感覚が生じていたため癒着部(図1)、そして背屈時に伸張感が生じた腓腹筋内側頭の2か所をR-PWの照射部位とした。
▼治療パラメータ
‐ 癒着部 トランスミッター:R15、照射数:2,000発、エネルギー:1.5bar
‐ 腓腹筋 トランスミッター:D20、照射数:2,000発、エネルギー:1.5bar
‐ R-PWによる治療後は自主トレーニングとして、段差を用いたeccentric exerciseを継続して行ってもらった。
- 結果
R-PW実施後は可動域・疼痛等の改善が得られた。
‐ 再来院時には足関節背屈角度の低下、筋力低下、疼痛の再発は認めなかった。
‐ R-PW照射前後の各評価項目の変化: 背屈角度(図2): 照射前9.5° → 照射後15°
‐ 羽状角(図3): 照射前28.9° → 照射後24.1°
‐ 疼痛(カーフレイズ時のNRS): 照射前6 → 照射後0
‐ 表面筋電図(カーフレイズ時の腓腹筋): 照射前148μv → 照射後201μv
- 治療のポイント
‐ R-PWを照射した部位は、問診と触診、誘発テストで痛みの再現性があるかを評価した上で決定した。
‐ 本症例では、伸張痛とつまるような違和感が強く出現していた術創部近位に癒着が生じていると考え、その周囲にR-PWを照射した。
‐ 筋活動の低下が見られた腓腹筋にも滑走性不全が生じている可能性があると考え、R-PW治療を実施した。
‐ R-PW治療後は自動運動を継続することが有効である。
図1 |
Pre | Post |
図2 足関節背屈角度(自動) 自動運動による足関節最大背屈角度を撮影。Image Jにより角度を算出 3回測定の平均値を採用。 |
Pre | Post |
図3 羽状角 足関節背屈10°で固定し、超音波にて画像を撮影。筋束と深部腱膜のなす角度をimage Jより計測。1画像につき3本の筋束との角度を求め平均値を採用。 ※羽状角測定時は筋電図を用い、筋活動が生じていないことを確認。 |
医療法人 三仁会 春日井整形外科 リハビリテーション科 理学療法士 水谷 仁一
(医療法人 三仁会 あさひ病院 スポーツ医学・関節センター 岩堀 裕介 監修)
- 症例
‐ 41歳 男性 既往歴なし
‐ 2017年8月頃から左肩関節に疼痛出現。
‐ そのまま自己判断にて経過観察していたが、疼痛がさらに増悪し関節可動域制限も著明となったため、
2018年8月に当院を受診し凍結肩と診断。
‐ 2018年9月より保存療法(理学療法のみ)開始。疼痛改善したが拘縮が残存したため、
2019年5月より拡散型圧力波治療(以下、R-PW)を追加。
- ポジショニング
‐ ステップ1: 仰臥位(肩関節外旋位)
‐ ステップ2: 側臥位(患側上。肩関節屈曲・内旋位)
両肢位ともに肩関節は可能な限りストレッチングポジションをとる。
- 治療プロトコール
▼ステップ1:
肩関節を外旋位に保持しながら腱板疎部から前下関節包にかけてR-PWを照射する(図1)。
腱板疎部中心にR-PW照射する場合は肩関節下垂位。前下関節包中心に照射する場合は可能な限り肩関節外転外旋位で照射する。
‐ 治療パラメータ: トランスミッター:DI20 or C15、照射数:2,500発
▼ステップ2:
可能な限り肩関節挙上内旋位を保持させながら後下関節包を中心にR-PW照射する(図2)。
‐ 治療パラメータ: トランスミッター:D20T、照射数:2,500発
- 結果
関節可動域の変化:
‐ 初期評価: 屈曲95°、外転70°、外旋15°
‐ 5回照射後再評価: 屈曲155°、外転120°、外旋25°
- 治療のポイント
‐ 関節可動域制限が強い運動方向から拘縮組織を絞り、的確にR-PWを照射する必要がある。
‐ 肩関節拘縮にR-PWを照射するポイント:
1) 対象とする組織を伸張させた肢位で照射する。
2) 肩関節の場合拘縮による代償運動が生じやすい事から関節の固定が重要となる。
例えば、肩関節外転外旋を行うと上腕骨頭は背側へ偏移(伸張した方向と逆方向に上腕骨頭が偏移)するため、
背側から上腕骨頭を押し上げてR-PWを照射する(図3)。
3) R-PW照射後には必ず関節可動域訓練を合わせて行う。
図1 腱板疎部に対するR-PW | 図2 後方関節包に対するR-PW | 図3 代償を抑制しての前下関節包に対するR-PW |
医療法人 三仁会 春日井整形外科 リハビリテーション科 理学療法士 水谷 仁一
(医療法人 三仁会 あさひ病院 スポーツ医学・関節センター 岩堀 裕介 監修)
- 症例
‐ 10歳 女児 既往歴なし スポーツ:器械体操
‐ 2019年1月床競技中に着地失敗し、左肘関節受傷。近医を受診し骨折と診断される。
‐ 手術が必要と判断され手術目的で総合病院へ紹介されたが、保存的治療の方針となり(ギプス固定6週 + ギプスシーネ3週)、
経過観察のみで対処。
‐ 2019年5月肘関節可動域制限著明のため紹介受診。屈曲拘縮著明のため拡散型圧力波治療(以下、R-PW)と可動域訓練処方。
- ポジショニング
‐ ステップ1: 仰臥位(肘関節最大伸展・肩関節の代償(過度な伸展)に注意)
‐ ステップ2: 仰臥位(肘関節最大伸展・肩関節の代償(過度な伸展)に注意)
- 治療プロトコール
▼ステップ1:
肩肘関節を伸展位に保持しながら前方関節包にかけてR-PWを照射する(図1)。
‐ 治療パラメータ: トランスミッター:C15、照射数:2,500発
▼ステップ2:
肘関節を伸展位に保持しながら上腕二頭筋筋腹から停止部・前腕回内屈筋群に対しR-PWを照射する(図2)。
‐ 治療パラメータ: トランスミッター:D20S、照射数:2,500発
- 結果
関節可動域の変化:
‐ 初期評価: 屈曲150°(右155°)、伸展-35°(右+20°) ※回内・回外は拘縮-
‐ 10回照射後再評価: 屈曲155°、伸展-5°
- 治療のポイント
‐ 肘関節屈曲拘縮に対してR-PWを照射するポイント:
1) 肘関節最大伸展位でR-PWを照射する。
2) 前腕回外位で前方関節包に対してR-PWを照射する。
3) 肘関節屈曲拘縮の場合、肘関節伸展に伴い肩関節伸展で代償する事があるため、肩関節の代償を抑制して照射する。
‐ 拘縮全般に対してR-PWを照射する場合、照射後に必ず可動域訓練を合わせて行う。
図1 前方関節包に対するR-PW | 図2 上腕二頭筋筋腹から停止部・前腕回内屈筋群に対するR-PW |